大学合格の報告に来てくれた生徒の話

1か月ほど前に、とても嬉しいことがありました。

以前に通ってくれていた生徒が、大学合格を知らせに来てくれたのです。彼女は、英会話サイモンズが開校してまもない頃に入会してくれた生徒で、高1から高2にかけて通ってくれました。理系志望で受験勉強が忙しくなった高3時には通えなくなりましたが、最後のレッスンでは「英語には自信を持っていいと思う。ただ、声に出して練習する機会はできるだけ持った方がいいよ。」と言ってスタッフみんなで送り出しました。

お母さまから「娘がご報告とお礼にぜひ伺いたいと言っていまして‥‥」とご丁寧なお電話をいただいた時には、そんなふうに言ってもらえることに驚いたのですが、本人から進学先を聞いてまた驚きました。見事、京都大学の工学部に合格したというのです。喜びにあふれる彼女と話していると、私たちも「本当によかったなあ」と祝福の気持ちでいっぱいになりました。

ありがたいことに、彼女は「サイモンズで英語を習っていて本当によかったです」と何度も言ってくれました。もちろん、私たちのレッスンは「英語の実力を身につける」ためのものなので、大学受験にも役立つはずです。ただ、今回の彼女があまりにも「役に立った」と言ってくれるので、京大の二次試験に興味がわき、ちょっと調べてみることにしました。私たちは予備校ではないので、出題傾向のような情報にはかなり疎いのです。

京大の二次試験の英語は、大問が4題です。(I)と(II)は長文読解問題で和訳が中心です。そして、(III)と(IV)が英作文になっています。私たちは京大の二次試験が「ほぼ和訳と英作文だけ」という非常に特徴的なものであることも知りませんでした。

以下は2017年入試の問題 (III) と (IV) です。

(III) 次の文章を英訳しなさい。(25点)

「生兵法は大怪我のもとというが、現代のように個人が簡単に発信できる時代には、とくに注意しなければならない。聞きかじった知識を、さも自分が考えたかのように披露すると、後で必ず痛い目にあう。専門家とて油断は禁物、専門外では素人であることを忘れがちだ。さまざまな情報がすぐに手に入る世の中だからこそ、確かな知識を身に付けることの重要性を見直すことが大切である。」

(IV) 次の会話を読んで、空欄(1)、(2)に入る適当な発言を、解答欄におさまるように英語で書きなさい。(25点)

Anne: Literature has a language barrier, and it’s very hard to understand foreign literature. I believe there are definitely borders in literature. But music has no borders. That’s a good point of music.

Ken: Wait a minute. What do you mean by “music has no borders”?

Anne: (1)___________________________________ In my opinion, this demonstrates that music has no borders.

Ken: Well, actually, the problem is not so simple. (2)_______________________________ That’s why I think there are borders in music after all.

難しいなあ、と率直に思います。英語の偏差値がいつも70以上あるとか、英検準1級を持っているとか、そういう上位レベルの受験生であっても、予備校が解答例として挙げているような英文を時間内に書くことは難しいでしょう。おそらく中学や高校の平均的な英語教師でも書けないと思います。正直なところ、私たち日本人スタッフも自信がありません。

ただし、二次試験では6割くらいの得点で合格ラインに達するようです。だとすれば、彼女なら十分に対応が可能だと感じました。そして、彼女が「役立った」と言ってくれたことの意味も分かりました。念のためですが、6割くらいというのは二次試験での話で、もちろんセンター試験ではかなりの高得点が必要になります。彼女は1問だけミスをして満点を逃してしまったと言っていました。

さて、彼女が「役に立った」と言ってくれたことは、具体的には2つありました。この2つは本当に大切なことなので、少し丁寧に書いてみようと思います。

まず1つ目は、「基本英文を音としてサッと思い出せたこと」です。

英会話サイモンズの個別練習では、基本英文の暗唱トレーニングに取り組んでいます。小中学生はオリジナルのプリントを使っていますが、今のところ高校生は、「総合英語Forest」や「ALL IN ONE Basic」といった受験にも対応できる参考書を使って、この基本英文の暗唱トレーニングを行っています。高校英語を学ぶための書籍には、通常700から900くらいの基本英文が収録されています。進学校や予備校では「受験生ならこれらの基本英文をまず頭に叩き込め!」とよく言われるのですが、それをきちんと実践できているのは上位レベルの生徒の、しかも一部だと思います。

今回の彼女は、「総合英語Forest」の854英文のうち、優先順位が高い600くらいの英文を使って基本英文の暗唱トレーニングを行っていました。付属の音声を聞きながら、日本語訳だけを見てサッと英文を言えるようになるまで練習する、というトレーニングです。10から15文くらいが1セットになっており、1文あたり5秒で目標設定をしています。つまり12英文が含まれているセットだと、目標タイムは60秒以内です。

英文は比較的簡単なものだと、

私は試験の前には緊張します。
I get nervous before exams.

マサコは留学することを決めた。
Masako has decided to study abroad.

彼女がいつも私に同意するとは限らない。
She does not always agree with me.

というような英文です。また、長かったり、やや複雑な例としては、

彼らが結婚した時、知り合ってから10年になっていた。
They had known each other for 10 years when they got married.

もし10分早く出発していたら、列車に乗り遅れることはなかったのに。
If I had left ten minutes earlier, I would not have missed the train.

彼は幽霊は怖くないと言っていたが、それは本当ではなかった。
He said he wasn’t afraid of ghosts, which wasn’t true.

のような例文があります。

暗唱のスピードは5秒/文が目標ですから、仮に上記の6文で暗唱トレーニングをするなら30秒以内で言えるようにしなければなりません。もちろん、英文を読むのではなくて、日本語訳だけを見て「音で覚えた英語を口に出して言う」のです。

彼女は入会前に学校以外での英語の学習経験が特にあったわけではありません。ですから、最初のころは「音として英文を記憶・再生する」ということに不慣れでしたし、発音についても/s/と/sh/の区別、/r/と/l/の区別、という基本的な部分から練習する必要がありました。けれども、彼女には人一倍の練習量を稼ぐことができ、しかもほぼ完璧に言えるまで練習を続けられるいう根気強さがありました。

当時の個人別報告メールには次のように書かれていました。

〇〇さんの素晴らしいところは、タフなところです。集中力がもつので、練習が丁寧であり、かつ量が稼げます。猛烈な練習量です。「あー疲れた」とか「できなーい」みたいなひ弱なことを言う小学生に、「あのお姉さんを見なさい。あの姿を目指さないといけない。とにかく口を動かしなさい。」というようなアドバイスをしたことが何度かあります。ある子なんかは、「(〇〇さんが)ずっと練習しっぱなしなので、いつになったら一息つくのかと思って見てたら、いつまでも休まないので、それが気になって自分の練習に集中できませんでした。」という変な言い訳をしたくらいです。

「700~900くらいの基本英文を頭に叩き込め」ということはよく言われるのですが、前述のようにそれを実行しているのは上位レベルの生徒の一部だと思います。しかも、覚えていたとしても、文字などの視覚を使って何とか覚えたという状態では、うろ覚えになりやすく、再現するにも時間がかかります。この点、彼女は「基本英文を音として記憶している」ので、思い出すスピードが速く、しかも正確です。これは、入試の英作文において大きなアドバンテージになったと思います。

次に2つ目です。彼女は京大合格に役立ったこととしてもう一つ、「限られた英語力で何とかして伝える経験を積んでいたこと」を挙げていました。

英会話サイモンズのレッスンには、毎回15分間のマンツーマン英会話があります。それは私たちが、「ある種の力は実際に英語を使ってみないと身につかない」と確信しているからです。たとえば、英語を話すことへの心理的な抵抗をなくす、というのも一例です。そして、「手持ちの英単語や基本英文をうまく使い回すコツや慣れ」というのも、実際に英語を使う経験なしには身につきません。彼女が言っていたのは、この「コツや慣れ」のことでしょう。

今回の京大の (III) でも、「生兵法は大怪我のもと」、「聞きかじった知識」、「痛い目にあう」、「油断は禁物」、「素人」、「確かな知識」など、対応する英語を思い浮かべづらい日本語がたくさん含まれていました。もちろん、適語をサッと思いつくことができればいいでしょうが、適語を知らない場合に「どのように工夫して書くのかを見たい」というのが出題の意図だとも言えます。

たとえば、「素人」について、 amateur という単語は多くの受験生が知っているでしょうが、「門外漢」という文脈から考えると、単純に amateur という単語に飛びついてよいかは疑問です。実際に、予備校が出している解答例を5つほど見比べてみましたが、amateurという英単語を使っているのは1例だけで、門外漢を意味する layman という適語を使っているのが2例、そして「よく知らない」とか「経験を積んでいない」という意訳をしているものが2例でした。おそらく京大受験生の中でも layman という単語を知らない生徒は多いでしょうから、そもそも「適語を知らないことを前提に書く」ことが求められているとも言えます。

私たちスタッフのミーティングでは、”Direct translation doesn’t work.”という言葉がよく出てきます。「直訳は役に立たない」という意味であり、私たちが生徒に心掛けてほしいと思っていることです。

たとえば、中高生の多くは「文化祭」を直訳的に”Cultural Festival”と言おうとします。もちろん、このように載せている辞書もありますし、間違いではないのですが、日本で英語講師をしている外国人でもないかぎり、”Cultural Festival”と聞いてもそれがどういうものなのかはイメージできません。ですから、「文化祭」をどう直訳するのかにこだわる必要はなく、まずは”Bunka-sai”などと日本語で言ってもいいので、それがどんなものなのかを具体的に説明することの方がずっと大切です。同じように、「体育委員」や「たこ焼き」や「ガラパゴス携帯」なども、形式的に直訳しただけでは通じません。

こういうことは、自ら実際に経験しなければ学べないと思います。そもそも気づくことさえないでしょう。今回の彼女も、15分間のマンツーマン英会話を何十回と経験するうちに、「直訳的に」ではなく「説明的に」英語を話す力が少しずつ身についていたのだろうと思います。そして、それが京大入試の難問の中でも生きたのでしょう。

(1)基本英文を音としてサッと思い出せたこと。(2)限られた英語力で何とかして伝える経験を積んでいたこと。この2つは、まさに私たちが個別練習とマンツーマン英会話を通して身につけてもらいたいと考えていることです。ですから、彼女の言葉に私たちはとても勇気づけられました。

そして、勇気づけられたのは私たちスタッフだけではありません。彼女のことを中高生に話したのですが、後進にとっても良い刺激になったと思います。私たちも、生徒たちも、目標を高く持とうという気持ちになりました。前述のように「900英文くらいを頭に叩き込む」ことを実際にやれているのは、一般的な受験生で言えば、結局はトップクラスの生徒だけです。けれども、一緒の空間で学んでいる誰かが、それをやり遂げるのを目にすると、「自分にもやれる」と思えるものです。今回の話を聞いて、明らかにモチベーションが高まったように見える生徒もいます。

今回の彼女は、高1での入会時点では基本英文の暗唱をやったことがありませんでした。そのことを考えれば、現在の高1生や中3生で、あるいは小学生で、「英語を音で覚える力」だけで言えば、彼女の高1スタート時を上回る力を持っている生徒は、何人もいます。ただ、「猛烈な集中力と練習量」という点で見れば、やはり彼女が歴代ベストでしょう。その点の重要さも生徒たちにできるだけ伝えながら、「どんどん練習して、どんどん話す」というムードをもっともっと高め、それを私たち英会話サイモンズの文化や伝統のようなものにしていきたいと思います。